職業、経歴、経験などの意味に訳されることが多い「キャリア(Career)」は、ひとつの定義にはおさまりきらない広がりのあるキーワードです。
●広義の「ライフ・キャリア」(Life Career)
→ 生き様、人生、経験
●狭義の「ワーク・キャリア」(Work Career)
→ 職業、職歴、経歴
「キャリア」という一語には、上のように広義の意味での「ライフ・キャリア」と、狭義の意味での「ワーク・キャリア」のふたつに大きくわけられますが、最近は「キャリア = 仕事」といった意味合いで使われることが多くなっているようです。
そこで今回は、ITエンジニアを志すみなさんに「キャリア」の基礎知識と、「キャリア」の派生用語である「キャリアパス」「キャリアアップ」「キャリアデザイン」の意味や効果について解説します。
冒頭でも解説したとおり「キャリア」は、「ライフ・キャリア(Life Career)」と「ワーク・キャリア(Work Career)」のふたつの意味をもちますが、最近は、ドラマや映画などで「キャリア組」という言葉が多く使用されていますよね。なかでも特に身近なのが警察組織の「キャリア組」かもしれません。
大ヒット作の「踊るシリーズ」では、「ノンキャリアの警察官」と、「エリートのキャリア組」が捜査手法をめぐって激しく対決する様が描かれますが、警察組織でのノンキャリアとキャリアには、次のような違いがあります。
●ノンキャリア
都道府県警察が実施する採用試験に合格した警察官(地方公務員)。都道府県の警察署に毎年1万5000人ほどが採用されている。地域の安全を管理する警察(所轄署)に配属された新人は「巡査」としてキャリアをスタートし、察内部で実施される昇任試験をパスすることで階級が上がっていく。ドラマや映画では、聞き込みや張り込みなど捜査の最前線に立ち、容疑者を追い詰めていく姿が描かれる。
●キャリア
国家公務員試験の総合職などに合格し、将来の幹部候補生として採用されたエリートで、国家公務員であるキャリア組の採用人数は毎年10名前後と驚くほどの少数。警部補としてキャリアがスタートし、1年2カ月後に警部、4年目に警視に昇進。難関を突破して中央省庁に採用された「キャリア組」は、(トラブルなく上司に評価されることで)高い地位や高収入が約束されている。ドラマや映画では、現場に立つ所轄の警官をとりまとめ、スーツ姿でビシッと決めて捜査の指揮を執る姿で描かれることが多い。
大ヒットドラマや映画などの影響もあり、近年は「仕事」「経歴」などの意味合いで使われることが多い「キャリア(Career)」ですが、その起源はラテン語の「車道」で、英語では競馬場や競技場におけるコースやそのトラック(行路、足跡)を意味するものでした。この意味から「キャリア」は、個人が成長する“道のり”や、個人が仕事をするうえで進む“道筋”を示すようになります。
ちなみに、日本語ではモノなどを運ぶ車両を「キャリアカー」と呼びますが、これは日本語特有の使い方になります。英語では「Carrier」の一語に“荷物を運搬するモノ・ヒト・組織”という意味があるため、「キャリアカー」は「温かいホットコーヒー」「馬から落馬する」と同じ、重複表現になります。
英語圏では次のように表記されますので、スペルや発音を間違わないようにしましょう。
●空母 Aircraft Carrier
●遺伝子・伝染病保菌者 Carrier
●電気通信事業者 Carrier
●自動車運搬用大型トラック Car TransporterまたはCarrier Car
●特定貨物運搬船 Carrier Ship
●ショッピングカート Shopping CartまたはShopping Trolley
●抱っこひも Baby Carrier(ベビーカーはBaby Buggy )
勤務年数、年齢等を基準に、ピラミッド形の組織のなかで職歴や給与が上がっていく長期雇用での働き方が当たり前だった日本では、直属の上司が横暴であっても、マネジメント能力に欠けていても、その指示に従って仕事をすることが当たり前とされ、昇進・昇格はもちろん、自らの能力開発も基本的に企業任せでした。
ところが、キャリアの個別化や多様化、働き方のフレキシブル性が重要視されるようになったことで、終身雇用、年功序列に代表される集団的かつ一律的な労働システムは前時代的なものとなり、私たちを取り巻く労働環境は、個を尊重した新たなシステムに転換しようとしています。
そうした時代の転換期において、厚生労働省職業能力開発局は平成14(2002)年に、「キャリア」「キャリア形成」の意味を次のように定めています。
キャリアとは、一般に「経歴」「経験」「発展」さらには、
「関連した職務の連鎖」等と表現され、
時間的持続性ないし継続性を持った概念
※「キャリア形成を支援する労働市場政策研究会」報告書より抜粋
ここまで「キャリア」の一語が示す意味や使い方、「キャリア」の定義について解説してきましたが、ここからは、A社とNさんのケースをもとに、「キャリア」の派生用語である「キャリアパス」「キャリアアップ」「キャリアデザイン」に目を向けていきます。
意味 :「キャリアパス(Career path)」とは、企業が示すキャリアアップへのルートのこと。
職業上において期待される道筋や方向性を示す。
A社にプログラマとして採用されたNさんに対して、A社が「業務経験を積むことで、30代でプロジェクトのチームリーダー、30代後半でシステムエンジニアになれる」といったように、会社が従業員に対して、特定条件に基づいて上位職種へ昇格できる道筋を示すことを「キャリアパス」といいます。
A社が自社社員に中長期の「キャリアパス」を示すことで、Nさんをはじめとする社員には次のようなメリットが得られます。
●高いモチベーションで仕事に取り組める
●目標を設定しやすく、その目標に向かってチャレンジする意欲が生まれる
●自然と、新たな資格・技術の習得に努めやすくなる
●短期の目標をクリアするごとに、自己成長ややりがいを実感できる
●キャリアアップする(成長し続ける)ことで、選択肢が広がる
また、A社にとっても次のようなメリットがあります。
●人材の流出を防ぐ効果が得られる
●社内での昇進基準や条件を明確化できる
●キャリア実現のために必要な要件を社員に示すことができる
意味:「キャリアアップ(Career up)」とは、職業能力を向上させること。
現在の職位・役職から上位職に上がり、それに伴って収入も増えることを指す。
A社で働く社員には、人によって「出世したい」「高収入を得たい」「プライベートを大事にしたい」「出世しなくていいので、現場でエンジニアとして働き続けたい」……など様々なニーズがあります。
例えば、年収や待遇をアップさせたい人や、リーダーとして将来活躍したいという「キャリアアップ」を希望する人は、次のような取り組みにチャレンジすることで、自分が思い描くプランを現実のものにする可能性が高まります。
●思い描くキャリアプランのため、職位別に必要なスキルを自発的に習得するようになる
●思い描くキャリアプランのため、中長期のスキルアップに取り組むようになる
●思い描くキャリアプランのため、プロジェクトなどに積極的に参加するようになる
●思い描くキャリアプランのため、キャリアアップを優位にする人脈を作るようになる
●10〜20年後の職位昇格をめざし、マネジメントスキルの習得に励むようになる
逆に、責任を伴うリーダー(マネジメント職)などへの「キャリアアップ」を希望せず、開発現場の最前線でITエンジニアとしての道を極めたいと思っている人も最近は増えています。専門職(スペシャリスト)としての道を究める「キャリアアップ」には、次のような“道筋”があります。
●専門性と社会的な市場価値を高めながら、社内で技術スキルを遺憾なく発揮する
●スキルをより発揮できる職場へ転職(キャリアチェンジ)する
●フリーのエンジニアや、ITコンサルタントとして独立する
意味 : 「キャリアデザイン(Career Design)」とは、働き(経験を積み)ながら、
自身のキャリアを主体的に設計・実行していくこと。
自分の価値観、能力、適性、環境を考慮しながら、理想とする未来の
自分像を描き出すプロセスを指す。
A社でプログラマとしてITエンジニアのキャリアをスタートさせたNさんが、将来的にシステムエンジニアとして活躍したいという「キャリアデザイン」を描いている場合、そのゴールに到達するためには「業務と平行してより高度なスキルを習得する」「様々な経験を積みながら、技術力をブラッシュアップさせる」といった不断の努力が欠かせません。
このように、A社が提示する「キャリアパス」と、自らが考えた中長期の計画に基づき、「システムエンジニアになる」というゴールに向かって、階段を一段ずつ上がっていく工程を設計することを「キャリアデザイン」といいます。
つまり、会社が主体となって従業員のキャリアアップのルートを示す「キャリアパス」に反して、「キャリアデザイン」は会社任せではなく、自律的(自発的)に、自分が理想とするキャリアを描き出すプロセスになります。
百人いれば百通りの「キャリアデザイン」がありますが、より現実的(実現可能)な「キャリアデザイン」を描くためのポイントは、「職業キャリア」と「人生キャリア」の要素をいかに調和させていくか……になります。
「キャリアデザイン」が絵に描いた餅にならないよう、2段階に分けて実現可能な「キャリアデザイン」を描いていきましょう。
「キャリアデザイン」が絵に描いた餅にならないよう、2段階に分けて実現可能な「キャリアデザイン」を描いていきましょう。
【1段階】次の5つの要素に則って“自己の明確化”に取り組みます。
● 自己分析を行い、自分が有しているスキル、専門性、適性を明確にする
● 自分のどの部分(スキル・素養)が優位かを明確にする
● 中長期スパンで、自分がなりたい姿や目標を明確にする
● ライフイベント(結婚、第一児誕生など)や、生活環境の変化を想定する
● 市場や技術動向を想定し(見すえ)、優先事項や価値観を明確にする
【2段階】「キャリアデザイン」を具体化し、必要に応じて加筆・修正します。
● 短期の「キャリアデザイン」を具体的に描いてみる
● 中長期の「キャリアデザイン」を大まかに描いてみる
● プラン実現のため、どんな行動がいつ必要になるかを具体的に想定する
● 環境変化に柔軟に対応するため、自身の市場価値を定期的に測る
● 一度描いたプランに固執せず、適宜見直しながら修正を加える
ひと昔前までは「将来なりたい職業」を小学生に質問すると、サッカー選手、プロ野球選手、医師、保育士、美容師などが上位にランクインしていましたが、近年ではYouTuberなどの動画配信者や漫画家・イラストレータなどが大幅に順位を上げています。
こうしたZ世代をはじめとする若い世代の就業意識の多様化に伴って、職業観も様変わりしています。例えば、安定しているイメージが強かった公務員や大手企業を選択することなく、自分のやりたい仕事や働き方を選択する人が確実に増えていますし、自主的に能力開発に取り組む(市場価値を上げる)ことで、成長の実感や働くことの満足度を高める人も増えています。
同時に、企業側にも大きな変化が起きています。様々な産業において人手不足や後継者不足が叫ばれるなか、企業側はテクノロジーを活用することで、組織の活性化や生産性向上を図っていますし、人手不足を補うため採用活動にも力を注いでいますが、多くの企業では新卒採用者の定着率の悪さが経営上の大きな課題になっています。
実際に、上場企業や全国展開する大規模企業では2極化が進んでいて、新卒で採用されたけれど、昇格するまでに何年もかかり、その間は上司の言われるまま雑用的な仕事しか任されず、スキルが身につかない……といった旧態依然とした体質の企業は、企業規模や歴史、認知度にかかわらず若い世代から見向きもされなくなっている傾向が強まっているようです。
この背景には、「採用された企業で“つぶし”の効くスキルを身につけて、数年後にキャリアチェンジ(転職)してキャリアアップする」というワークスタイルを当たり前とする、若い世代の意識や価値観が大きく影響しているといってよいでしょう。
—— 社会、企業、労働者を取り巻く環境が劇的に変化するいま、若い世代は自発的に「仕事(ワーク・キャリア)」や「生き方(ライフ・キャリア)」を考えるようになり、理想とする「仕事」や「生き方」を実現するために必要なスキルを身につけようとしています。
そんな理想とする「仕事」や「生き方」を実現する有効な方法が、企業が提示する「キャリアパス」であり、他者から押しつけられることなく自律的に描く「キャリアアップ」「キャリアデザイン」であることは間違いないでしょう。ここまで解説したそれぞれの言葉の違いをしっかり理解して、むだなく効率的にあなたらしい「キャリア」をゲットしてくださいね。
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