半導体製造装置やシリコンウエハーなどの半導体材料業界では、日本が世界の約23%のシェアを占めていますが、2022年の「半導体製造装置メーカー売上高ランキングトップ10」には、 売上高1兆円超の国内トップの半導体製造装置メーカー 東京エレクトロン(4位)を筆頭に、アドバンテスト(6位)、SCREEN(7位)、KOKUSAI ELECTRIC(9位)の4社がランクインしています。さらにトップ11位以下にも、荏原製作所、日立ハイテク、ニコン、キヤノン、信越化学工業、三菱マテリアルなどの半導体製造装置メーカーが名を連ねます。
とはいえ、「半導体製造装置メーカートップ10」における4社の日本勢のトータルシェアは19%弱にとどまり、圧倒的な強さを見せるのが米国勢です。米国勢は4社でシェア約43%を占め、次いでオランダ(2社でシェア約38%)が続きます。
現在のところ「半導体製造装置」の国別シェアでは、米国、オランダ、日本がトップ3に君臨していますが、半導体製造に欠かせない材料や部品・システム・設備等を含む業界全体の国別シェアに目線を変えると、ここでも米国が世界の半分の50%と圧倒的な強さを誇り、日本のシェアは23%で2位になっています。
半導体製造装置とひとくちにいっても、一般の人にはなかなか理解しづらいといえますが、半導体の製造プロセスは「マスク製造工程」「ウエハー製造工程」に始まり、そこから細分化された「前工程」「後工程」で構成されています。
そのひとつひとつのプロセスに多様な装置、材料、部品・システム・設備が必要であり、それらの装置・材料等を専門に開発・供給する多様な企業(メーカー)が携わっています。
下図では、各半導体製造プロセスを中央に置き、プロセスの横にそのプロセスに強い主要メーカーを記しています。半導体は非常に複雑かつ高度な技術が求められる幾重ものプロセスによって成り立っていることがわかります。
さらに、半導体製造に欠かせない多種多様な「材料」でも、下図のほかにさまざまな企業が連携しています。
「フォトマスク」 → 大日本印刷、トッパン、HOYA
「レジスト」 → JSR、東京応化工業、信越化学工業
「ウエハー」 → 信越化学工業、SUMCO
「後工程材料」 → 昭和電工マテリアルズ、イビデン、田中貴金属工業
加えて、半導体製造装置の部品やサブシステムでも以下のようなメーカーが名を連ね、「半導体製造装置」「部品」「サブシステム」等の多領域で日本メーカーが存在感を示しています。
「マスフ・コントローラー」→ フジキン、堀場エステック
「流体制御」 → フジキン、CKD
「ポンプ」 → 荏原製作所、樫山工業
「機械部品」 → THK、日本電算
「ダイヤモンド工具」 → ディスコ、旭ダイヤモンド工業
「エンジニア求人ナビ」では、これまでにも多数の半導体関連記事を配信し、技術や業界の最新動向をご紹介してきましたが、それらの記事でも触れたとおり、今日では最先端半導体の微細化プロセスは3nm〜2nmに突入していて、今日も世界の半導体メーカーが熾烈な開発・製造技術競争を繰り広げています。
振り返ると、コロナ禍によって世界的な半導体不足の報が世界を駆けめぐり、その影響で「新車の納車まで1年待ち」「最新家電の製造がストップ」といった出来事を身近に感じることがたくさんありました。
こうした出来事によって、半導体が水道・電気と同様に、経済においていかに重要な存在であることを私たちは知ることになりましたが、コロナ禍が収束し、平常を取り戻した2023年には日本国内で半導体のビッグファブ(巨大工場)が熊本と北海道に新設されるニュースが報じられ、「日の丸復活なるか!」とその動きに大きな注目が集まりました。
しかし、世間の耳目が半導体に集まった一方で、前人未踏の「2nm世代プロセス」をゴールとする「“微細化競争”のロードマップはいったん終了する?」との見立てが、業界内外でささやかれていることをご存じでしょうか?
コロナ禍を機にリモートワークが新しいライフスタイルになり、データ処理量が爆発的に増加。
さらに、コロナ禍による工場停止やサプライチェーンの寸断により、自動車、デジタル機器、
家電用の半導体が世界的に不足し、半導体の重要性が再認識された。
同時に、半導体ファウンドリがアジア圏に集中しているなどの課題が顕在化し、
今後増大する半導体ニーズに対応するため、中国や米国では
新たな拠点の立ち上げや、生産能力拡大に向けた動きが活発化。
半導体を製造するギガファブ(巨大工場)設立には“兆”単位のコストを要するが、
生産能力拡大に伴う費用対効果を上げるためには、約300mm(8インチ)から
約450mm(12インチ)への移行がカギになるとの見方が強まった。
その一方で、22nm~28nmプロセス等の汎用チップは、
この数年で過剰供給に陥るリスクが指摘され、汎用チップへの需要は、
中長期的にダウンサイクル傾向に陥るのではないか……という見立ても。
汎用チップの過剰供給リスクに対し、微細化半導体やパワー半導体は、
高性能デジタル機器、SSD(Solid State Drive)、 5G通信、完全運転支援EV、電車、
産業機器、AI、ハードウェア、太陽光発電などの多領域で需要が高まることが予測されるため、
約450mm(12インチ)製造ラインで量産を加速させる必要性が高まる。
12インチ製造ラインでの量産には、微細化プロセスコストの増大がネックになっていて、
7nm世代以降の微細化に伴い、ウエハーあたりのプロセスコストは
世代ごとに約30%ずつ増加していくという見立てが強まっている。
半導体のなかでも、EVや産業機器の電気制御を行ううえで高電圧かつ大電流を扱える先進的特性を有するパワー半導体の需要が今後は急拡大すると見込まれていて、東芝やロームのほかにも多くの日本企業が開発や生産を手がけ、投資に力を入れています。
EVや産業機器など多様な最新製品に搭載されるパワー半導体の2022年の世界シェアでは、三菱電機の4位を筆頭に、5位に富士電機、7位に東芝、9位にロームと、日本メーカー4社が10位以内にランクインし、一定の競争力を持っています。
しかしながら、パワー半導体製造の領域では、目下のところドイツに本社を置く多国籍企業の「インフィニオン・テクノロジーズ」が世界トップクラスの市場シェア(20%超)を有していて、日本各社のシェアはいずれも1ケタ台にとどまり、大きく水をあけられた状況にあります。
さらに日本国内では、多数の国内メーカーが乱立したことで競争力の低下が顕在化し、現在は連携・再編の動きが加速するとともに、経済産業省も多面的な支援に取り組んでいます。
日々の報道で「半導体」の文字を見ない日がないほど、半導体業界では時々刻々とさまざまな変化が起きていて、2023年は熊本へのTSMCの進出、北海道でのラピダスの新稼働(2027年中)など、半導体に関する新たな報道が熱を帯びて報じられました。
ところが、先端半導体の熾烈な研究・開発競争がいよいよこれから始まる!という2024年の年明けとともにマグニチュード7.6の「令和6年能登半島地震」が発生し、被災地の壊滅的状況が刻々と明らかになりました。氷点下の気温のなかで水や電気のライフラインが停止しており、行政、自衛隊、民間をあげての支援が行われていることは、みなさんご存じのとおりです。
ここからは報道ではあまり報じられていない、甚大な被害によって生産停止に追い込まれた北陸に生産拠点を持つ半導体・電子部品メーカー各社の動向についてご紹介します。
本部/京都市長岡京区、TOPIX Core30・JPX日経インデックス400
事業/世界トップクラスに位置する電子部品を主に展開
電子部品のセラミックコンデンサ(キャパシタ)で世界シェア首位
「北陸地方は歴史的に事業の中心地であり、数多くの電子部品の開発と生産を行ってきた」と村田製作所が説明する穴水村田製作所(石川県穴水町)をはじめとする同社の生産拠点は、「令和6年能登半島地震」によって操業不能に陥り、1月5日プレスリリースでは「最優先で従業員全員の安否確認を進めていく」と発表。
さらに、村田製作所による2024年1月9日の発表によると、富山村田製作所(富山市)、福井村田製作所の武生事業所(福井県越前市)、宮崎工場(福井県越前町)、鯖江村田製作所(福井県鯖江市)では、すでに一部生産/生産を開始しており、1月9日から金沢村田製作所の金沢事業所(石川県白山市)および、能美工場(石川県能美市)、金津村田製作所(福井県あわら市)、アスワ村田製作所(福井市)でも、順次生産を再開する予定としています(1月5日、1月9日プレスリリースより)。
国内大手電機メーカー東芝デバイス&ストレージ株式会社」100%出資
事業/ディスクリート半導体(個別半導体)や汎用ロジックICの製造・販売、
ウエハーから完成品までを一貫して手がける
東芝の子会社・東芝デバイス&ストレージは、「令和6年能登半島地震」における同社子会社の加賀東芝エレクトロニクス(石川県能美市)の事業活動への影響について、「被災前の生産能力に近いレベルへの復帰時期を2月上旬目標と定める」「広範囲で破損したクリーンルームの排気配管の修復を行い、製造装置立ち上げを進めている」との第4報を発表。
東芝グループのパワー半導体および、ディスクリート半導体の製造拠点である加賀東芝エレクトロニクスは、2024年度中に300mmウエハーに対応する新たなパワー半導体製造棟の稼働をめざした第1期工事中のさなかにあったため製造はまだ始まっていませんでしたが、今災害によってファブが影響を受け、200mmウエハーに加えて、2022年度下期より300mmウエハーを用いたパワー半導体の生産は操業停止に陥っていることを発表しています。さらに、2024年度中の稼働目標も厳しい状況下にあるため、工業用水確保における水インフラや電力インフラの復旧に向け、各自治体と交渉を続けている旨を発表しています(1月12日プレスリリースより)。
本社/埼玉県新座市、東京証券取引所プライム市場
事業/電子部品、デバイス、電子回路、および電気機械器具の製造・販売
サンケン電気の堀松工場、志賀工場(石川県羽咋郡志賀町)と、能登工場(石川県鳳珠郡能登町)は、「令和6年能登半島地震」によって甚大な被害を被り、状況調査に一定の時間がかかると発表したものの、従業員の安否確認をいち早く完了(1月12日時点)。
しかしながら、避難を余儀なくされている従業員が多数いることから、生活支援に関する相談専用の窓口を石川サンケン内に設置し、支援をスタートしたとも発表しています。
また工場については、一部建物に対する安全確認を引き続き行っている状況で、3工場の生産設備については、出勤可能な従業員に加え、サンケン電気本社ならびにグループ各社からの応援人員による確認作業を続けているとのこと。水インフラや電力インフラが復旧次第、生産再開を速やかに行えるよう準備を進めていることについてもあわせて発表しています(1月12日プレスリリースより)。
—— 未曾有の被害のなかで大変なご苦労が続いていると思われますが、被災に遭われた多くの方の日常が一日も早く戻ることを願うとともに、北陸の地で展開する半導体関連メーカーの正常稼働についても、心より祈念いたしております。
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